設立経緯
本研究会は、日本学術振興会「放射線科学とその応用」第186委員会を発展的に改組したもので、 産学官連携による当該分野のさらなる発展を目指すことを目的としています。
放射線とは、目で見える光に比べて通常100倍以上のエネルギーを持つ光子(電磁波)や粒子で、中性の原子などを電離させる能力のあるものを指します。 たとえば、ガンマ線やX線は、「がん診断」、空港などでの手荷物検査など非破壊で内部を見ることができるといった、現代社会には必要な道具です。 その一方で、被ばくの危険性もあることから、適切な管理と最大限の安全性と信頼性が必須です。
放射線の本格的な研究は、100年程度の歴史がありますが、現代の素粒子物理学などに関連した分野など、まだまだ分からないことや、研究開発要素が多いです。
また、近年では、X線やガンマ線といった産業用で既に利用されてきた放射線の他に、 加速器などの小型化、発展による、中性子やその他の粒子線といった他の放射線の発生技術が確立され、 その利用検討、研究開発、そして実用化が進んできています。
一方で、新規材料とその合成法、回路技術、人工知能といった新しい技術が加速度的に生まれ、検出技術の発展も著しく、 より短時間での放射線計測が可能になったり、これまで計測が難しかったイベントの計測、さらには自然界に存在する宇宙線(ミューオン) などの利用も、検討、研究開発、そして実用化が進んできています。
このように、発生源、検出側、そしてそれらをどのように応用するかという観点が非常に重要であり、 またそれぞれの技術を支えるおおくの基礎的な分野があります。
日本は、これらの分野ひとつひとつでは非常に優れた技術を持っていますが、横の繋がりが希薄で、さらに産学官の連携も不十分と感じています。
そのような現状の中、われわれは、放射線の最大限の有効利用を目指して、検出器素子に使う結晶成長、 材料開発、検出器開発、シミュレーション研究、計測などの手法と、非破壊検査、核医学、放射線防護・管理、組成分析といった 放射線の産業応用に関する幅広い分野の学術界および産業界委員が集まり、現在の諸問題への対応、 および、今後のスマートな社会の実現を目指した活動を行っていきます。
研究会の経緯・方針
委員長 高橋 浩之
東京大学 大学院工学系研究科
「放射線科学とその応用」研究会の前身は、2012年4月に日本学術振興会(学振)の産学協力研究委員会として設置され、第一回は2012年5月31日に開催された。第一期は名古屋大学の井口哲夫先生、第二期は京都大学の神野郁夫先生がそれぞれ委員長を務められ、以来、10年間にわたり、その活発な活動を展開してきた。特に、放射線科学に携わるアカデミアと産業界が定期的に出会う場として機能し、研究者・技術者間の距離を大幅に縮め、多くの産学共同研究や共同開発、また、多くのスタートアップ企業をも生み出してきた。この研究会が立ち上がった際には、産学協力研究委員会が多数立ち上がっており、特に全体会合で一堂に会する際などは大きな会場が多くの分野の参加者で埋め尽くされ、壮観であった。
その後、コロナ禍に直面し、対面での会合の開催が困難になったが、オンライン化を進めて、研究会活動の維持を図った。しかし、最近になり、学振の方針として産学協力研究委員会については整理を進め、令和6年度で終了することとなった。このため、本研究会も学振からは少し離れて活動を継続することとなったが、学振から事業譲渡を受け、予算についても旧放射線科学とその応用研究会より引継いで運用することとなった。このため、事業の継続性が求められており、当初の方針としては、従来の学振の186委員会をと同様の事業をしっかりと継続していくことが重要であると考えている。
一方、これまでコロナ禍により、オンラインでの開催を余儀なくされていたが、オンラインでは参加者間同士の直接のやりとりを行うことがやや困難であり、これまでに構築してきた関係の維持が中心となり、積極的に新たな連携を結ぶ機能が十分発揮されずにいた点が考えられる。新たなにスタートした「放射線科学とその応用」研究会では、参加者間のより密接なコミュニケーションを通して、産業界とアカデミアの間の交流が活発化して、多くの共同研究や新製品の開発が進むことを期待している。また、参加者からの率直な意見をもとに、産業界の関心の高いテーマを選定し、時宜を得た内容の研究会を運営していくように努力していきたいと考えており、どうかご指導とご協力をいただきたくお願いしたい。